毎月送られてくる日本内科学会雑誌第111巻の
「特集」を簡単にまとめました!
どうも、らーめんどくたーです。
日本内科学会雑誌(日内会誌)は、
適度にマニアック!
エビデンスバッチリ!
と、
これから内科専門医試験・総合内科専門医試験を受ける人、J-OSLER(ジェイオスラー)のネタ探し、内科医として研鑽を積みたい人、全ての「内科医」に取って非常に優秀な雑誌です。
しかし、いくらコンパクトとはいえ、1年間で見るとその量は膨大です。
詳しく知りたい時は全部読むからさ〜〜〜簡単なまとめがあると便利だな
と、そもそも、なかなか雑誌を手に取って読もうと思っても何を読んだらいいからわかりません。
そこで今回は、2022年に発行された日本内科学会雑誌の第111巻1号〜12号に掲載されている「特集」について、独断と偏見で大事なポイントをめちゃくちゃざっくりですが簡単にまとめました!
最初に少し、内科学会雑誌の構成を話した後に、具体的なトピックスのまとめを紹介しますっ!!!
他にも当ブログでは有益な内科専門医試験に関する記事執筆してるのでブックマーク頂けると嬉しいです!
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- 日本内科学会雑誌の概要
- 過去1年の日本内科学会雑誌のバックナンバーはJ-stageのオンライン上で見れる
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第1号〜第12号「特集の総まとめ」
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第1号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第2号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の臨時増刊号・第3号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第4号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第5号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第6号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第7号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第8号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第9号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第10号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第11号 まとめ
- 日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第12号 まとめ
- まとめ
日本内科学会雑誌の概要
日本内科学会雑誌は一般社団法人・日本内科学会から毎月10日付で発行されている雑誌です。内科学会所属の皆さんなら毎月病院か自宅に届いているので知らない人はいないでしょう。
年間13回の発行で、毎年上記のように科ごとに分かれて構成されています。
過去1年の日本内科学会雑誌のバックナンバーはJ-stageのオンライン上で見れる
過去1年分の日本内科学会雑誌のバックナンバーはJ-Stage、日本内科学会雑誌資料トップでアーカイブされており、オンライン上で検索して見ることができます。
自宅では紙ベース、出先ではバックナンバーのアーカイブからみる。
そう使い分けもできます。
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第1号〜第12号「特集の総まとめ」
内科学会雑誌には診断・治療や病態生理などのトピックスをまとめた「特集」として診療ポイントの解説のほか、講演会やセッション、今月の1例症例報告、医学と医療の最前線コラム、専門医取得の単位解説なども掲載されています。
それぞれ勉強になるのですが、深く掘り下げすぎるとややマニアックすぎる面もあり、ここではあくまで専門医試験やJ-OSLERのネタ探しという面で重要だと思った箇所を、トピックスをまとめた特集にフォーカスし、独断と偏見でまとめました。
今回はまとめていませんが、特集以外の今月の症例や医学と医療の最前線コラムはマニアックながら内科専門医試験、J-OSLERのネタ探しでも使えそうなものがあるので時間がある人はチェックしても良いでしょう。
例えば第4号の「リンパ球性下垂体炎の診断と治療」とか。
内容はマニアックだけど、
J-OSLERの「研修手帳」にはしっかり載ってるんですよねw w w
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第1号 まとめ
Acute-on-Chronic Liver Failure
脂肪性肝疾患の多くは肝不全が徐々に進行するが、肝硬変にアルコール多飲や感染症、消化管出血などの増悪要因が加わって急速に肝不全が進展する肝障害をACLF(Acute-on-Chronic Liver Failure)とする。
(引用文献:持田智,日内会誌 111:9〜14,2022)
血中肝線維化マーカー
主な血中肝線維化マーカーとして、P-Ⅲ-P、Ⅳ型コラーゲン、Ⅳ型コラーゲン7S、ヒアルロン酸、M2BPGi、オートタキシンがある。
(引用文献:小田桐直志ほか,日内会誌 111:15〜21,2022)
肝硬変の画像診断 超音波エラストグラフィ
肝硬変の画像診断には様々あるが、超音波絵ラストグラフィは肝硬度を測定することで肝線維化を診断する方法により肝線維化のステージ毎の客観的評価がされるようになった。
ただし、炎症や胆汁うっ滞(閉塞性黄疸など)、うっ血がある場合は正確な測定ができない。
(引用文献:飯島尋子,日内会誌 111:22〜29,2022)
C型非代償性肝硬変
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)治療は2019年に非代償性肝硬変にも承認され、12週間ウイルス薬投与する。Child-pugh分類Cでも使用可能。全体のウイルス排除率は90%前後と効率だがまれにウイルス排除後に増悪する症例も見られる。
(引用文献:竹原徹郎,日内会誌 111:30〜35,2022)
アルコール性肝硬変
飲酒量を客観的に評価するバイオマーカーとして糖鎖欠損トランスフェリン(carbohydrate-deficient transferrin:CDT)が2016年に測定可能となり用いられている。以前は禁酒が第一目標とされてきたが達成が困難であり、最近では飲酒量の低減から始める「ハームリダクション」という概念やオピオイド受容体に作用し飲酒欲求を抑制する「ナルメフェン」が2019年に承認された。
(引用文献:鍛治孝祐,日内会誌 111:36〜42,2022)
NASH肝硬変の治療
NASHに対する治療法として食事運動療法は大事であるが、肥満を伴うNASH肝硬変症例では不用意な減量でサルコペニアを誘導する可能性があり、介入前に肝予備能や栄養状態を評価する。
薬物療法としてはビタミンÉ投与が推奨され、その他併存疾患に応じて治療薬を選択するが、脂質異常症+肝硬変に対してはスタチンは禁忌である。そのほか、減量手術や肝移植などの手術療法も基準を満たせば治療適応がある。
(引用文献:三宅映己,日内会誌 111:43〜49,2022)
肝硬変に対する栄養療法と運動療法
栄養療法として分岐鎖アミノ酸製剤や、分割食・就寝前エネルギー投与による絶食期間の短縮が大事である。運動療法に関してはサルコペニアの評価として握力測定・CTや生体電気インピーダンス法(BIA法)などで評価し安全性を十分に担保する。
(引用文献:清水雅仁,日内会誌 111:50〜57,2022)
肝性脳症
肝性脳症は血中アンモニア上昇によって血液脳関門を通し脳に到達することで起こると言われている。治療法は非吸収性合成二糖類(ラクツロース)でアンモニア産生の減少、分岐鎖アミノ酸製剤でのバランス是正、腸管非吸収性抗菌薬でアンモニア産生菌抑制のほか、弱い推奨ではあるが亜鉛製剤やカルニチンによる尿素回路活性化も治療法として推奨されている。
(引用文献:星川恭子,日内会誌 111:58〜65,2022)
静脈瘤治療・門脈血栓治療
静脈瘤治療には内視鏡的治療、手術療法、血管内治療及び薬物療法が存在する。薬物療法の代表として非選択的β遮断薬(NSBB)が用いられる。肝硬変に合併する門脈血栓症は凝固能のインバランス・門脈血流異常・血管壁障害の3因子が深く関わる。門脈血栓症の治療は常に消化管出血や静脈瘤出血のリスクを慎重に考慮する必要がある。
(引用文献:日高央,日内会誌 111:66〜73,2022)
肝硬変の次世代治療法
肝硬変に至る過程にある肝線維化に対して、臨床試験では未だ投与期間中に肝線維化の改善まで示せていない現状がある。しかし、第Ⅲ相試験まで進んだ薬剤もあり着実な進歩している。その他再生医療も研究成果が蓄積されつつあり、今後の抗線維化治療薬・再生医療の開発が期待されている。
(引用文献:小川浩司,日内会誌 111:74〜81,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第2号 まとめ
HFrEF
「2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療」の治療アルゴリズムにおいてHFrEF慢性心不全治療薬として従来までのACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRAの3剤併用からSGLT2阻害薬を追加した4剤併用への移行が示された。
(引用文献:朝倉正紀ほか,日内会誌 111:206〜212,2022)
HFpEF
HFrEFと違い長期予後を改善する治療薬は確立はされていない(近年ではHFrEFに続きSGLT2阻害薬の有効性が報告されてきてはいる)。高齢女性に多く、高血圧、心房細動、糖尿病などの併存症を高率に認める。
(引用文献:安斉俊久,日内会誌 111:213〜220,2022)
ARNI、ACE阻害薬、ARB
ARNIは、ARBとナトリウム利尿ペプチド分解酵素阻害薬の合剤として開発された新薬でACE阻害薬以上の有効性が示されている。従来からのACE阻害薬、ARBからの切り替えが推奨されているが切り替えのタイミングや開始の注意点もあり導入の際は適切な使用を心がける必要がある。
(引用文献:彦惣俊吾ほか,日内会誌 111:221〜227,2022)
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は2型糖尿病患者における心不全入院抑制作用が示されただけでなく、ACEI/ARB+β遮断薬+MRAに続く薬として、HFrEFに対する心血管死および心不全悪化イベント抑制の効果が示されている。本邦ではダパグリフロジンおよびエンパグリフロジンがHFrEFに対して承認されている。
(引用文献:桑原宏一郎,日内会誌 111:228〜234,2022)
利尿薬
利尿薬は予後改善のエビデンスがなくとも「うっ血解除」目的に「目に見える治療」として推奨されている。ループ利尿薬が主軸で必要以上のループ利尿薬投与は様々な弊害もあり、慎重な判断が必要となる。
各利尿薬の腎作用部位と機序
(引用文献:猪又孝元,日内会誌 111:235〜240,2022)
β遮断薬とイバブラジン
イバラブジンは洞結節HCN-4チャネル阻害薬として心拍数を減少させる。β遮断薬と異なり陰性変力作用がないため純粋に心拍数のみを下げる。適応はβ遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者で「洞調律かつ安静時の心拍数が75回/分以上」の場合であるが、β遮断薬に対する忍容性がない、禁忌などβ遮断薬が使用できない患者にも投与することが可能である。
(引用文献:波多野将,日内会誌 111:241〜247,2022)
ジギタリスの位置付けと心房細動を合併した心不全症例の管理
心不全患者において、ジギタリスは洞調律では強心作用を、心房細動ではレートコントロールを目的に使用される。しかし、心不全を合併した心房細動のレートコントロールに対して長期的なジギタリスの有益性は低く考えられている。一方で、カテーテルアブレーションの有効性は多数報告されており、治療戦略もシフトしてきている。
(引用文献:岡英一郎,日内会誌 111:248〜254,2022)
ベルイシグアト
ベルイシグアトは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を活性化させるsGC刺激薬である。これまでの治療薬になかった機序を介する新しい心不全治療薬であり、第Ⅲ相臨床試験において主要項目である心血管死または心不全入院の複合エンドポイントの発現を有意に減少させた。
(引用文献:城宝秀司,日内会誌 111:255〜262,2022)
なお、バイエル薬品は2021年6月23日、慢性心不全治療薬ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ錠)の製造販売について、日本国内における承認を取得したと発表した。
(参照:ケアネット;ベルイシグアトが慢性心不全治療薬として承認/バイエル薬品)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の臨時増刊号・第3号 まとめ
臨時増刊号は第119回日本内科学会講演会の講演、シンポジウム、セッションなど。第3号は第49回内科学の展望と2021年度日本内科学会生涯教育講演会のセッションなどであり、特集トピックスではないため今回は割愛とします。
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第4号 まとめ
骨粗鬆症の疫学、サルコペニア・フレイル
骨粗鬆症とサルコペニアは密接に関係し、両者が合併した場合をOsteosarcopenia(オステオサルコペニア)と呼ぶ。サルコペニアの診断基準は、
上記のように一般の診療所などでは下腿周囲長でのスクリーニングと筋力、身体機能でサルコペニアの可能性を評価する。骨格筋量が測定可能な施設においてはDXA法やBIA法を用いて骨格筋量を測定した上で筋力と身体機能を評価し、確定診断する。
一方、フレイルとは加齢に伴う身体的要因だけでなく精神心理的、社会的側面も含んだ外的ストレスに対する脆弱性が更新した状態であり、健常な状態と自立性が喪失した要介護状態の中間的な状態のことである。
(引用文献:荒井秀典,日内会誌 111:724〜731,2022)
骨粗鬆症の診断
骨粗鬆の考え方は骨量と骨構造の問題から「骨脆弱性」の問題へと変化した。診断基準も改定・アップデートされ、まずは既存脆弱性骨折の有無の評価が重要で、特に胸腰椎と大腿骨近位部は骨密度によらず骨折が確認されれば骨粗鬆症と診断される。それ以外の既存脆弱性骨折は骨密度がYAMの80%未満の場合診断され、既存脆弱性骨折がない場合はYAMの70%以下または-2.5SD以下の場合診断される。(下表参照)
(引用文献:竹内靖博,日内会誌 111:732〜738,2022)
続発性骨粗鬆症の診断と治療
続発性骨粗鬆症の原因としては内分泌性(甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、性腺機能低下症、1型糖尿病)、薬物性(ステロイド、性ホルモン低下薬、チアゾリジン、β遮断薬、ループ利尿薬、PPI、ヘパリン、ワルファリン、抗不安薬、睡眠薬、抗痙攣薬、SSRI、メトトレキサート)、栄養性、不動性、先天性、生活習慣病、類縁疾患など様々あり、これらを十分に鑑別し骨粗鬆症治療につなげることが日常診療において期待される。
(引用文献:今西廉雄,日内会誌 111:739〜746,2022)
生活習慣病関連骨折リスク
生活習慣病は骨粗鬆とも関連が深く、特に2型糖尿病(1型はインスリン分泌不全による骨密度低下、2型は骨質劣化の影響)、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病は骨密度に関係なく骨折リスクが付与されることから原発性骨粗鬆症の診断基準を満たさない骨量減少症でも薬物治療の対象となる。
(引用文献:井上大輔,日内会誌 111:747〜757,2022)
骨粗鬆症の薬物療法
抗スクレロスチン抗体(ロモソズマブ)は骨形成促進+骨吸収抑制作用を併せ持つ。ほか、骨形成促進のみの治療薬は、副甲状腺ホルモン薬(テリパラチド)がある。また、骨吸収抑制薬は ①選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM) ②ビスホスホネート製剤 ③抗RANKL抗体(デノズマブ) があり、そもそものVitD、Ca不充足状態あれば活性型VitD製剤の投与を検討する。その際のVitD充足状態は血中25-OHVitDで測定する。それぞれ患者背景や作用機序を考慮した薬剤選択が重要である。
(引用文献:岡田洋右ほか,日内会誌 111:758〜764,2022)
1,25-(OH)2(活性型)VitDは
PTHなどで活性化、代謝された状態を調べるものであり、区別しよう!
骨粗鬆症に対する運動療法
骨粗鬆症患者に対する治療法として薬物療法と栄養療法のほか、運動療法も重要であり、ロコモ対策としてロコモーショントレーニングなど内科外来診察室でも可能な運動指導がある。
(引用文献:藤田博曉,日内会誌 111:765〜771,2022)
骨粗鬆症の栄養療法について
適切な体重を維持するためのエネルギー摂取とタンパク質、骨の健康に重要なカルシウム、ビタミンK、C、D、B群が必要不可欠であり、必要量の接種が難しい場合には補充療法も必要である。
(引用文献:上西一弘,日内会誌 111:772〜778,2022)
骨粗鬆症リエゾンサービスと多職種連携
骨粗鬆症治療の課題は薬物治療率と継続率が低いことであり、その解決のため多職種連携による骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)が実施されている。最初の骨折を防止する1次予防と、脆弱性骨折れいでの2次骨折予防の活動がある。
(引用文献:荻野浩,日内会誌 111:779〜786,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第5号 まとめ
低Na血症
低ナトリウム血症はまず血漿浸透圧を測定し等張性〜高張性であればグルコースなど有効浸透圧物質の関与を考慮する。問題になるのは低張性の場合で、AVP分泌が関与しているかを確認するため尿浸透圧を測定し、>100mOsm/kgH2OであればAVPが関与し自由水の排泄障害(尿の希釈障害)があるものとする(≦100mOsm/kgH2Oの場合は希釈障害はなく純粋な多飲などによる相対的/絶対的水分過剰を考える)。その際尿中ナトリウム低下(<30mmol/l)があれば有効循環血液量低下を(レニンアルドステロン系の亢進など)、上昇があれば利尿薬や腎疾患の有無を評価した上で副腎不全やSIADHなど様々な要因の評価が必要となる。
(引用文献:角浩史,日内会誌 111:902〜911,2022)
高Na血症
高ナトリウム血症の中でも細胞外液量が減少し自由水が喪失している状態、つまりAVP分泌不全の中枢性尿崩症とAVP作用不全の腎性尿崩症の病態鑑別が臨床的に大切である。中枢性尿崩症は脳死患者にも適応がありバソプレシンやその誘導体であるデスモプレシン投与が必要となることが多い。また、腎性尿崩症は様々な原因があるが慢性リチウム中毒、高カルシウム血症、低カリウム血症、腎疾患、薬剤(デメクロサイクリンやオフロキサシンなどの抗菌薬や抗真菌薬など)を鑑別する。
(引用文献:土井研人,日内会誌 111:912〜916,2022)
低K血症
低カリウムは病歴などで利尿薬による腎性、下痢による消化管性、そのほか薬剤性、インスリンや周期性四肢麻痺など細胞内外移動と、病歴から明らかな場合も多い。それに加え、代謝性アルカローシスの有無の評価や鑑別が難しい場合は尿電解質の評価、レニンアルドステロンのホルモン評価、低マグネシウム血症の存在の有無など様々な鑑別を行い診断する。もちろん緊急性のある場合は医原性高カリウム血症に気をつけながら補充を行う必要がある。
(引用文献:長浜正彦,日内会誌 111:917〜925,2022)
高K血症
高カリウム血症は主に慢性腎臓病を背景としたintakeの増加とoutの減少、そして細胞内シフト障害が原因であることが多い。outの減少は言わずもがな、intakeの増加が慢性腎臓病を背景とする理由は、腎機能が正常な場合intakeの増加のみで高K血症をきたすことは稀であることが知られているからである。その他よくある病態としてRAS阻害薬やミネラルコルチコイド受容体阻害薬による薬剤性高カリウム血症や糖尿病性ケトアシドーシスによる見かけ上の高カリウム血症(インスリン絶対数不足+高血糖による高浸透圧でKの細胞内→外シフトがあるが実際には浸透圧利尿などによりK絶対量欠乏)について再度理解しておく必要がある。
(引用文献:遠藤慶太ほか,日内会誌 111:926〜933,2022)
Ca、Mg異常
Ca、Mgの異常は代表的な病態についておさえておくことが大切である。Ca異常の原因はPTH作用過剰と低下、ビタミンD作用過剰と低下、骨吸収亢進と抑制、尿細管Ca再吸収亢進と低下、Ca摂取過剰、腸管でのCa吸収低下などがある。また、Mg異常は特に低Mg血症が大切で低Ca血症の合併とそれに類似したテタニーや筋痙攣、不整脈などの病態を呈す。また低K血症も合併し、これらの電解質異常を認める場合は血清Mg値を測定することが重要である。
(引用文献:副田圭佑ほか,日内会誌 111:934〜940,2022)
代謝性アルカローシス
代謝性アルカローシスは他の酸塩基平衡以上と異なり、腎臓(特に尿細管)からのHCO3-の排泄を低下させる維持因子の病態理解が重要である。維持因子には細胞外液量減少、Cl-欠乏、K+欠乏、ミネラルコルチコイド作用の亢進、アルドステロン過剰などが知られており、これら維持因子の病態の改名とその改善を図ることが大切である。
(引用文献:杉本俊郎,日内会誌 111:941〜948,2022)
代謝性アシドーシス
代謝性アシドーシスは不揮発酸の産生増加、酸排泄障害、アルカリ喪失により生じる。不揮発性酸の産生増加としてはAG開大性アシドーシスとしてケトアシドーシスや乳酸アシドーシスなどが、酸排泄障害としてはⅠ型の遠位尿細管アシドーシスや腎不全が、アルカリ喪失としては腎臓でのアルカリ喪失としてⅡ型の近位尿細管アシドーシス、消化管からのアルカリ喪失として下痢などが重要である。
(引用文献:坂口悠介,日内会誌 111:949〜956,2022)
遠位尿細管アシドーシスは尿酸性化障害で尿pHが5.5以上になるものの
近位尿細管アシドーシスではH+の分泌は保たれるため尿pHが5.5以下になる点もおさえよう!
Na-Clを用いた酸塩基平衡異常
血液ガス検査を行わなくてもNa-Clを用いることである程度の酸塩基平衡異常のスクリーニングが容易になる。考え方として仮にHCO3-=24、AG=12を正常値とした上で、Na-Cl<36では代謝性アシドーシス、Na-Cl>36では代謝性アルカローシスの可能性を示している。
(引用文献:志水英明,日内会誌 111:957〜964,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第6号 まとめ
特発性間質性肺炎
間質性肺疾患には300種類以上の疾患が含まれているが、その中でも原因を特定し得ない一群を特発性間質性肺炎と呼称する。例えば、特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎などがこれにあたる。2020年には進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対するニンテダニブの適応拡大もあり、確信度による診断、作業診断、疾患の挙動などの概念とともに、大きく変化しており専門医と非専門医との連携が重要となっている。
(引用文献:近藤康博,日内会誌 111:1077〜1083,2022)
過敏性肺炎における診療のポイント
過敏性肺炎はⅢ・Ⅳアレルギー反応によるアレルギー性間質性肺疾患である。原因別頻度では鳥関連がもっとも多い。日本では急性型の原因は夏型に代表されるトリコスポロンによる真菌の原因が多く、慢性型では鳥関連が多くなる。急性型はTh1とTh17反応が、慢性型ではTh2の免疫反応が主体である。診断のポイントは曝露評価、胸部HRCT、BALのリンパ球分画や組織所見が大事であり、治療のポイントとしては抗原回避が基本で、それでも呼吸不全がある場合ステロイドなどの薬物治療が行われる。進行性線維化を伴う間質性肺疾患としての慢性過敏性肺炎ではニンテダニブが用いられる。
(引用文献:宮崎泰成,日内会誌 111:1084〜1091,2022)
膠原病に伴う間質性肺疾患
膠原病に合併する関して間質性肺疾患の合併頻度が最も高いのは強皮症である。膠原病全体では組織パターンはNSIPが多い。筋症状に乏しい皮膚筋炎に合併した急性進行性の間質性肺疾患患者では抗MDA5抗体が陽性となることが多い。膠原病に合併する間質性肺疾患は臨床経過や組織パターンが多彩なため治療法の確立も乏しくさらなる研究の発展が期待されている。
(引用文献:須田隆文,日内会誌 111:1092〜1098,2022)
進行性線維化を伴う間質性肺疾患
適切な疾患管理を行ったにもかかわらずはいの線維化、呼吸機能の低下、呼吸症状の悪化が進行するフェノタイプが存在し、このような一群を、進行性線維化を伴う間質性肺疾患と称することが提案されている。これらを対象にニンテダニブの適応追加はもちろん、複数の新規抗線維化薬の開発も進んでいる。
(引用文献:千葉弘文ほか,日内会誌 111:1099〜1105,2022)
薬剤性肺障害に伴う間質性肺疾患
薬剤性間質性肺疾患の病理組織に特異的なものはなく様々な像を呈する。中でもびまん性肺障害(diffuse alveolar damage:DAD)パターンは致死率も高く、分子標的薬を含めた抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬の一部、小柴胡湯やアミオダロンなどで認められる。患者が薬として認識していない栄養食品やサプリメントなどにも注意深く問診することも大切である。
(引用文献:冨岡洋海,日内会誌 111:1106〜1113,2022)
職業に伴う間質性肺疾患
職業に伴う間質性肺疾患は過敏性肺炎とじん肺に大きく分かれる。過敏性肺炎では真菌や鳥関連はもちろん、日本ではキノコ栽培関連過敏性肺炎は日本で多数報告されている。じん肺では石綿粉塵による石綿肺、シリカ(遊離珪酸)の曝露による珪肺、溶接工肺、超硬合金肺などが代表的である。いずれにせよ最も重要なことは職業歴・曝露歴の問診であり、早期診断が大切である。
(引用文献:青木亜美ほか,日内会誌 111:1114〜1119,2022)
間質性肺疾患の画像診断
間質性肺疾患(ILDs)には原因不明のものをひとまとめにする特発性間質性肺炎(IIPs)と原因のある2次性(自己免疫性、職業環境性、医原性、その他)に大別される。診断には複数の臨床医を含めた多分野の専門医による集学的検討(MDD)を行うことが診断精度を高める上で有用である。その中でUIPパターン、NSIPパターンの鑑別など判別していくが、この時には通常CTよりよりスライスの薄く高分解されたHRCT像を用いた診断は必須である。
(引用文献:藤本公則,日内会誌 111:1120〜1131,2022)
間質性肺疾患の病理診断
原因の明らかでない特発性間質性肺炎(IPs)は間質性肺疾患の約30%に存在する。病変の分布や性質、時相、気道、胸膜との関連性などを評価し代表的な組織パターンであるUIP、NSIP、OP、DADなどの像を鑑別する。
(引用文献:谷野美智枝,日内会誌 111:1132〜1138,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第7号 まとめ
急性骨髄性白血病の初期診断と外来治療
急性骨髄性白血病は遺伝子変異、染色体異常により腫瘍化した幼若造血細胞の無秩序な増殖により様々な症状を伴う。治療の基本は抗悪性腫瘍剤による強力化学療法で寛解導入療法を行い、その後は地固め療法、維持療法が行われる(下図参照)。また、急性前骨髄性白血病(APL)の寛解導入療法ではビタミンAの誘導体である全トランス型レチノイン酸(ATRA)が用いられる。その他、近年分子標的薬の進歩により再発・難治性FLT3遺伝子変異陽性AMLにFLT3阻害薬であるギルテリチニブ、キザルチニブが承認されており、2021年には抗アポトーシス蛋白BCL2阻害薬ベネトクラクスとアザシチジンもしくは低用量シタラビンとの併用が承認された。
(引用文献:石川裕一,日内会誌 111:1344〜1350,2022)
急性リンパ性白血病の初期診断と外来治療
急性リンパ性白血病はフィラデルフィア染色体陽性と陰性で治療が異なるので染色体分析またはBCR-ABL1遺伝子の検索で迅速に鑑別を行うことが重要である(下図)。また、t(4:11)などのKMT2(MLL)再構成、染色体本数44本以下の低2倍体、複雑核型(反復性遺伝子異常を認めず、染色体本数40〜50かつ5つ以上の異常を持つ)は予後不良染色体として知られている。長期生存が得られるようになって問題となるのは様々な晩期合併症であり骨密度低下、成長障害、骨粗鬆症、認知機能障害、妊孕性の低下、心機能低下、内分泌障害、2次発がんなどがある。
(引用文献:八田善弘,日内会誌 111:1351〜1356,2022)
慢性骨髄性白血病における診断と治療
慢性骨髄性白血病は健康診断や他科通院中の定期採血などで偶然に発見された白血球増多症を契機に診断されることが多い。治療はチロシンキナーゼ阻害薬の登場により全生存率が飛躍的に向上したが、その有害事象の適切なマネジメントが求められる。注意すべき代表例として、骨髄抑制、皮疹、QTc時間延長、肝機能障害、胸水、肺動脈性高血圧症、血管閉塞有害事象などがあり他科と連携し診療に携わることが大切である。
(引用文献:小野孝明,日内会誌 111:1357〜1363,2022)
骨髄増殖性腫瘍の初期診断と外来治療
骨髄増殖性腫瘍(MPN)の代表的疾患として慢性骨髄性白血病(CML)、真性赤血球増加症(PV)、本態性血小板血症(ET)、原発性骨髄線維症(PMF)がある。後者3疾患はCMLと区別してBCR-ABL陰性MPNと呼ばれる。診断の進め方として血球増多をみた場合、まずはCMLを疑ってBCR-ABLの検索を行う。その後2次性血球増多に該当するか鑑別し、JAK2、CALR、MPL遺伝子変異を検索する。いずれの遺伝子変異がなくとも遺伝子変異を認めない症例があるため、最終的には骨髄生検を行う。
(引用文献:竹中克斗,日内会誌 111:1364〜1370,2022)
骨髄異形成症候群の初期診断と外来治療
骨髄異形成症候群(MDS)の確定診断には骨髄検査で骨髄異形成の形態異常及び骨髄細胞の染色体検査で核型異常を同定することが大切である。リスクによって下図のように国際予後判定システム(IPSS)やその改訂版のIPSS-Rを用いて層別化され、治療方針が決められる。高リスクMDSは予後不良でその経過中に高率に急性骨髄性白血病に進展する。
(引用文献:臼杵憲祐,日内会誌 111:1371〜1377,2022)
悪性リンパ腫の初期診断と外来治療
悪性リンパ腫はリンパ節腫脹を契機に診断される。その特徴として概ね40代以降の中高年者で無痛性かつ弾性硬で長径1.5cm以上の表在リンパ節腫大を認める場合、あるいはCTなどで周辺破壊性のないリンパ節腫大を認める場合には特に疑う。治療薬は外来治療で特に注意すべき有害事象には下表のようなものが代表的である。適切な合併症対策や診療連携が患者の予後改善に繋がる。
(引用文献:山口素子,日内会誌 111:1378〜1383,2022)
多発性骨髄腫の初期診断と外来治療
多発性骨髄腫はB細胞から分化した形質細胞による造血器腫瘍であり、骨髄腫細胞から産生される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の増加により貧血、腎機能障害、骨病変、高カルシウム血症、易感染性など多彩な臨床症状を呈する。国際病気分類(ISS)の判定で血清β2ミクログロブリン値とアルブミン値が予後推定因子として用いられる。(近年の改訂版(R-ISS)では従来のISSに高リスク染色体以上の有無と腫瘍細胞の増殖能を反映する血清LD値が追加されている。)治療介入には患者が自家造血幹細胞移植併用大量化学療法の適応(65歳未満で臓器障害や合併症のない症例)となるかどうかで治療戦略は異なる。
(引用文献:堺田恵美子,日内会誌 111:1384〜1391,2022)
造血幹細胞移植後の合併症と長期フォローアップ
造血幹細胞移植は悪性リンパ腫や多発性骨髄腫が多くを占める自家移植と、急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群に多い同種移植がある。同種移植は移植ドナー由来免疫細胞による移植片対腫瘍(GVT)効果が期待できる一方で、正常組織が障害されてしまう移植片対宿主病(GVHD)が起こることもありその両者は表裏一体の関係にある。近年ではGVHDの原因となる活性化したアロ反応性T細胞を選択的に抑制する移植後シクロホスファミドを用いたGVHD予防法の開発によりHLA半合致血縁者間移植が飛躍的に増加している。
(引用文献:西田徹也,日内会誌 111:1392〜1398,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第8号 まとめ
認知症の遺伝医療
認知症の大部分は孤発性に発症するが、稀少ながら遺伝子変異を同定することで背景病理や病態を推測することが可能となり、疾患修飾薬の知見が進んでいる。例えば常染色体優性遺伝の遺伝性アルツハイマー病は遺伝性認知症の中で最も頻度が高く、原因遺伝子としてPSEN1、APP、PSEN2の順に変異の頻度が多い。
(引用文献:池内健,日内会誌 111:1504〜1510,2022)
遺伝医療の進歩-パーキンソン病における疾患修飾療法の実現を目指して
パーキンソン病は原因不明の神経難病であり、進行阻止可能な治療開発が喫緊の課題である。例えば、GBA遺伝子のような孤発性パーキンソン病にも感受性のある遺伝子があるなど、遺伝性パーキンソン病の病態から得られる情報をもとに遺伝医療の進歩が期待されている。
(引用文献:服部信孝,日内会誌 111:1511〜1519,2022)
脊髄小脳変性症の治療開発の進歩
脊髄小脳変性症は孤発性と遺伝性に分類され、遺伝性のものは常染色体優性遺伝が多い。現時点では1型〜49型まで確認されているが、中でもCAGリピート伸長が原因遺伝子変異であるものが最も頻度が高い。SCAシリーズとは別にCAGリピート伸長が原因の歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は我が国において頻度の高い遺伝性脊髄小脳変性症として治療開発が進んでいる。
(引用文献:池田佳生,日内会誌 111:1520〜1526,2022)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する遺伝子治療
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は約10%が家族性であり、原因遺伝子はSOD1、FUSの順に多い。また、孤発性ALSにおいても疾患感受性遺伝子の配列異常が同定され核酸治療の開発が進んでいる。
(引用文献:漆谷真,日内会誌 111:1527〜1531,2022)
球脊髄性筋萎縮症と脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子にあるCAGリピートの異常伸長であり脊髄小脳変性症と同様にポリグルタミン病の一つである。男性のみが発症し、女性は通常無症状である。筋力低下の発症前には手指振戦がほぼ必発し神経症状に加え女性化乳房に代表されるアンドロゲン不応症や脂質異常症をしばしば合併する。
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、SMN1遺伝子の欠損もしくは変異を原因とする常染色体劣性遺伝である。症状はSBMA同様に下位運動ニューロン障害であるがアンドロゲン受容体遺伝子異常ではないため女性化乳房などは来さない。乳児死亡最多の遺伝性疾患であり、新生児スクリーニングによる発症前の診断・治療が進んでいる。
(引用文献:山田晋一郎ほか,日内会誌 111:1532〜1540,2022)
Fabry病
Fabry病はX連鎖遺伝の先天性代謝異常症で、α-galactosidaseAの欠損によりグロボトリアシルセラミドが蓄積することで生じるスフィンゴ脂質症の一つである。小児期に四肢などの疼痛、発汗障害、被角血管腫がみられ、成人期には腎機能障害、心筋症、脳血管障害を発症する。治療はアガラシダーゼアルファ/ベータの酵素補充療法と遺伝子変異にもよるがミガーラスタット塩酸塩の経口投与による薬理学的シャペロン療法がある。
(引用文献:後藤順,日内会誌 111:1541〜1547,2022)
筋ジストロフィー
近年、筋ジストロフィーの原因遺伝子が様々と明らかなになり診断・治療ともに目覚ましい進歩を遂げている。中でも最も頻度の高いDuchenne型筋ジストロフィーでは2020年にエクソンスキッピング治療薬を用いた治療が可能となった。これによって欠損したDMD遺伝子のエクソン52に隣接するエクソン53をスキップすることでエクソン54からのアミノ酸の読み枠が再開され、通常より短いものの筋線維膜の安定化に関わっているジストロフィンタンパクの発言が回復する。
(引用文献:江浦信之ほか,日内会誌 111:1548〜1554,2022)
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は中枢神経系の自己免疫性脱髄性疾患で若年女性に好発する。発症には複数の因子が関与する多因子疾患であり、環境因子としては喫煙、日照時間が短い高緯度地域(ビタミンDの不足)、EBウイルス感染などが知られている。遺伝子治療の適応は今のところなく、今後の発展が期待される。
(引用文献:磯部紀子,日内会誌 111:1555〜1559,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第9号 まとめ
第9号は第119回日本内科学会講演会の講演、シンポジウムなどであり、特集トピックスではないため今回は割愛とします。
ただ、もちろんリウマチ治療薬の話や上述したDuchenne型筋ジストロフィーのエクソンスキッピング薬の話など内科専門医試験でも出題されそうな最近の治療薬の話題なども掲載されているため時間に余裕がある場合は目を通しておくことを勧めます。
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第10号 まとめ
気管支喘息
喘息の基本病態は慢性の気道炎症のため吸入ステロイド薬が重要な薬剤となる。併せて長時間作用性β2刺激役をはじめとした長期管理薬を併用していく。また、重症喘息に対しては生物学的製剤による劇的な効果が得られる症例も出てきた。(下図参照)
(引用文献:福永興壱,日内会誌 111:2078〜2083,2022)
サルコイドーシス
サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽種性疾患である。病因論としてアクネ菌説が有力である。アクネ菌が経気道的に侵入し多くは肺や肺門部リンパ節に潜伏感染する。そこから何らかの環境要因を契機に活性化し類上皮細胞肉芽種が形成され全身諸蔵器に広がるとの説がある。よって呼吸器病変の合併頻度が高く、呼吸器科医が診療の中心となることも多い。
(引用文献:玉田勉,日内会誌 111:2084〜2093,2022)
IgG4関連呼吸器疾患
IgG4関連疾患呼吸器疾患は中高年の男性に後発し涙腺・顎下腺や膵臓などの胸郭外病変を伴うことが多い。診断基準は画像所見・血清IgG4値・病理所見・胸郭外病変の4項目と低補体血症の参考所見から構成されているが、病理所見においては実臨床ではIgG4染色が出せない場合などもありIgG4染色が不良な症例でも診断可能となっている。
(引用文献:松井祥子,日内会誌 111:2094〜2101,2022)
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
アレルギー性気管支肺アルペルギルス症はアスペルギルス属の真菌がサイズの小さい胞子の携帯で吸入され下気道で発芽し発症する。Ⅰ型+Ⅲ型アレルギー反応が生じ、粘稠な粘液栓が形成される。診断にはAspf1特異的IgE交代が有用である。
(引用文献:浅野浩一郎,日内会誌 111:2102〜2106,2022)
LAM(リンパ脈管筋腫症)
リンパ脈管筋腫症(LAM)は妊娠可能年齢の女性に主に発症し、肺の多発性嚢胞を形成するほか、腎臓をはじめとする血管筋脂肪腫、後腹膜腔などのリンパ脈管筋腫、乳糜漏などの肺外病変を伴うことがある全身性の腫瘍性疾患である。mTOR阻害薬であるシロリムスの登場により呼吸機能を保ち予後を改善させることができることとなった。
(引用文献:鈴木雅,日内会誌 111:2107〜2113,2022)
COVID-19と気管支喘息やアレルギー疾患との関わり
COVID-19の流行後、喘息入院は減少しておりマスク装着による呼吸器感染症の減少が関与している可能性が示唆された。喘息やアレルギー性鼻炎患者はCOVID-19に罹患しにくい傾向があり、喘息患者での重症化リスクも高くない。また、喘息における2型炎症や吸入ステロイド薬はウイルス受容体であるACE2発言を低下させる可能性が示唆されている。
(引用文献:長瀬洋之,日内会誌 111:2114〜2120,2022)
肺炎マイコプラズマ感染症と免疫・アレルギー反応
肺炎マイコプラズマは細胞壁を持たない小さな最近で宿主の状況により免疫系を回避したりあるいは強力な宿主免疫応答を引き起こしたりすることがある。宿主の免疫反応はIL-8などのケモカイン誘導やToll様受容体など自然免疫が関与する。喘息との関連性を示す報告も多くTh2炎症の免疫機構やサーファクタント分子との相互作用が示されている。
(引用文献:黒沼幸治,日内会誌 111:212〜2126,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第11号 まとめ
COVID-19パンデミックに伴う感染症発生動向の変化
COVID-19パンデミックに伴い、インフルエンザなどの急性呼吸器感染症を中心に感染症の発生動向に大きな変化が生じた。個人や社会レベルで行われてきた様々な感染対策が影響したことが最も考えられる。また、梅毒に関しては近年増加傾向が指摘されていたが2019年から2020年にかけて減少傾向となっており減少トレンドに入っているのかあるいはパンデミックの影響で診断を受ける機会が減っているのか慎重に見極める必要がある。
(引用文献:具芳明,日内会誌 111:2232〜2238,2022)
Long COVIDの実態と病態解明の進歩
COVID-19感染後に様々な症状が遷延することがあり、Long COVIDと呼ばれている。症状として呼吸苦や息切れのほか、原因についても様々な研究が行われている。
(引用文献:平畑光一,日内会誌 111:2239〜2244,2022)
COVID-19 最新の治療と開発状況
新型コロナウイルス感染症においては重症化リスクのある患者に早期にレムデシビルなどの抗ウイルス薬の投与をすることが重要であり、酸素吸入や人工呼吸器管理を要する中等症、重症患者ではデキサメタゾンなどの免疫調整薬を使用する。レムデシビルの位置付けを不動のものにしたACTT-1試験やデキサメタゾンの使用を確立したRECOVERY試験などは大規模な国際多施設研究によっていずれも短期間の間に非常に多くの患者をリクルートし、有効性を示した。
(引用文献:笠原敬ほか,日内会誌 111:2245〜2251,2022)
新型コロナワクチンの現状と今後の展望
2021年2月に始まった奔放における新型コロナワクチンは年月を重ねるごとに様々な新しいワクチンが登場し、ウイルスの進化とともに日々変化している。
(引用文献:斎藤真ほか,日内会誌 111:2252〜2260,2022)
ウィズコロナ時代における感染症医療人材育成
新型コロナウイルス感染症やサル痘などの新興感染症は今後も増えてくるものと考えられ、感染症医療は混迷を極めていくことが予想される。医療現場において感染症専門職の育成は時間も要するため感染症医療人材の育成には一般医療従事者の多職種連携による感染症医療実施の促進も併行する必要があると考えられる。
(引用文献:古本朗嗣ほか,日内会誌 111:2261〜2266,2022)
日本内科学会雑誌第111巻(2022)の第12号 まとめ
高齢者の在宅医療
在宅医療においては、老年医学を中心に、家庭医療学、救急医療、リハビリテーション医療、緩和医療の知識・技術・態度が必要となる。介護保険制度、多職種協働、地域包括システムについても深く理解する。医学生や若手医師の教育研修には以上の視点が求められる。高齢者診療の核となるのは高齢者総合機能評価であり、おおまかな予後を予測し、多職種と連携しながらその人らしい生活や人生を継続できるよう支援する。
(引用文献:山口潔,日内会誌 111:2370〜2376,2022)
在宅での認知症診療
認知症診療を行う上で、抗認知症薬の効果は限定的であり、まずは認知機能障害と生活障害に注目して認知症の状態を適切に評価することが大切である。その上でせん妄など改善可能な認知機能障害を評価する。例えばせん妄で一番多いのは薬物によるものであり被疑薬を検討する。そして、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、アルツハイマー型認知症といったそれぞれ異なる経過を持った病型診断を行うことが重要である。
(引用文献:内田直樹,日内会誌 111:2377〜2383,2022)
精神疾患を有する患者さんを訪問する際の心構え
精神疾患を有する患者さんの診療を行う際にはせん妄や認知症の行動心理症状を表すBPSDなどの精神症状だけでなく不眠、生活空間への配慮など患者さんの心理を理解しながら助言や薬剤調整を行うことが大切である。
(引用文献:鈴木龍太郎ほか,日内会誌 111:2384〜2390,2022)
総合診療と老年医学の立場から
現代社会の高齢化に伴い、在宅医療の充実を実現するためには在宅医療に従事する医師の育成は大切である。高齢者総合機能評価(CGA)で強調されるような包括的評価に関連する重要な概念のほか、よく遭遇する問題として転倒や虐待への介入など諸問題への対応能力が問われている。
(引用文献:馬渕卓,日内会誌 111:2391〜2398,2022)
在宅診療における難治性創傷のマネージメント
在宅診療では褥瘡や糖尿病性足潰瘍など難治性創傷が問題となり、局所的要因のポイントをシンボル化したTIMEコンセプト(T;Tissue non-viable or deficit/壊死組織・不活性組織、I;Infection or Inflammation/感染または炎症、M;Moisture Imbalance/滲出液の不均衡、E;Edge of wound-non advancind or undermined/進まない創縁または皮下ポケット)として提唱されている。
(引用文献:市岡滋,日内会誌 111:2399〜2406,2022)
在宅医療における効果的な医科歯科連携のTipsと歯科の最新トピック
口腔の健康は全身の健康とも関連し、基本的な口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションに加えて、オンライン診療やマウスピース型人工喉頭など最新の取り組みもなされている。
(引用文献:山口浩平ほか,日内会誌 111:2407〜2413,2022)
薬剤師からみた訪問診療
薬剤師が在宅医療へ介入することにより薬剤の安定供給はもちろん、服薬アドヒアランスの改善や薬剤の効果・副作用のチェックなどにより、住み慣れた環境での療養生活に安心をもたらすことができる。
(引用文献:畑世剛,日内会誌 111:2414〜2420,2022)
まとめ
これまで第111巻1号〜12号までの「特集」トピックスに絞って個人的に要約し、まとめました。
1年分の範囲の全体をざっと読みつつ、深掘りしたい箇所は各々チェックしていただければ幸いです。
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おまけ:
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