【具体例を用いて解説】癌緩和ケアだけじゃない全人的医療とは【臨床で必要のアプローチ】

J-OSLER

まず「全人的医療」「全人的アプローチ」と聞いて、ほとんどの人は

あー、癌の緩和ケアの話でしょ、はいはい。

と受け流してしまうと思います。

 

※僕もそうでした。笑

でも、この「全人的」な思考は、別に癌患者だけでなく、

全ての臨床医で必須のアプローチ方法なことに気づく必要があります。

後期研修医ならわかると思いますが、J-OSLERの評価項目にもこの「全人的アプローチ」は含まれています。

まずこの話の前提として、

我々医師は患者さんではなく、「病気」に目が行きがちです。

でもそれは現在の医学教育のあり方を考えると当たり前なことなのです。

・解剖実習での「死」への慣れ

・医学部での徹底した医学知識の詰め込み

 →知識がない=留年の恐怖

・「病気」が全ての国家試験

もちろん、これらは非常に大切なことです。

これらの経験から、我々は徹底的に「医師の視点」を磨きに磨き抜かれました。

しかし、その結果、医学部を目指していた当初は考えていた

「なぜ、医者という職業を選んだか」については考えることがなくなりました。

この「医学知識が全て」という現在の状況に警鐘を鳴らした厚生労働省は、

2020年度から医師としての知識だけでなく、

態度や技能も評価する「臨床実習終了時OSCE」の導入が正式に実施される予定となっています。

 

「病気」は体の痛みだけでなく、「心」の痛みでもある。

正直、それが理解できればもうこの記事を読む必要もありません。

癌患者では、この「心」痛みが強く出るため、よく全人的なケアと取り上げられますが、

それは何も癌患者さんだけでなく、全ての患者さんに取って大事なことなのです。

 

「全人的医療」とは、bio-psycho-social medicineと略され、

bio(生物医学、病気)だけでなく、psycho(心理)とsocial(社会)問題についても意識することのことを言います。

 

よく、明らかな医学的要因(bio)がない場合、psycho(ぷしこ)だ!なんて言われますね。

「病気」ではなく、「病気を持った患者視点」が本質です。

もう一度、「なぜ医者になったのか?」を考えてみてください。

 

具体的な全人的アプローチの磨き方:地域医療

大きな病院と小さな病院での医師の役割の違い

研修医時代、僕は北海道の田舎で実習をしました。

そこでは、東京の大学病院と違い、一人一人の患者さんへの向き合い方が全く異なっていました。

都内病院では「診断の難しい稀な疾患」がたくさん来ることに対して、

地域病院では「一般的なよくある疾患(いわゆるcommon disease)」が多いです。

その結果、どうしても大きな病院では、より「病気」に目が向きがちになります。

反対に、地域の小さな病院では、

文化的、社会的に異なる環境で、さらには人的にも医療的にも資源が乏しい中、

医師自身が主体性を持たなければなりません。

そこでは、病気以上に、様々な患者さんを取り巻く心理的、社会的問題にも直面します。

患者さんとベッドサイドで対話する中で、

(○○が好き→○○のこと、今度僕にも教えてくださいね!など)

感情を引き出すことを含めた全人的アプローチが重要になってきます。

 

「総合診療科」や「心療内科」では、「全人的医療」が必須

実際、この「地域医療」の役割に関して、都内では

「総合診療科」や「心療内科」がマインド医療のフィールドになっています。

心療内科はイメージが湧くと思いますが、総合診療科でもスペシャリティより、ジェネラリティが重視されます。

日本専門医機構の、総合診療専門医のホームページから無料で見れる専門研修専攻医研修手帳によると、7つの目標の中に

「患者中心の医療・ケア」があります。その中では、

地域住民が抱える健康問題には単に生物医学的問題のみではなく、患者自身の健康観や病いの経験が絡み合い、患者を取り巻く家族、地域社会、文化などの環境(コンテクスト)が関与していることを全人的に理解し、患者、家族が豊かな人生を送れるように、コミュニケーションを重視した診療・ケアを提供する。

専門研修専攻医研修手帳 2019年度版 より引用

と書かれています。

 

より具体例:全人的アプローチによって悩める患者を治療した例

雑誌「Comprehensive Medicine 全人的医療」に掲載された症例報告によると、

歯痛に悩む引きこもりのPTSD患者に対して、

bio・・・歯痛 に対してだけでなく、

psycho・・・歯科治療を避けたい、PTSD

social・・・引きこもり

という全人的アプローチを用いて、家族の協力や、訪問診療など心理社会的問題を解決しながら、

局所麻酔でなく全身麻酔を用いることで問題を解決したという一例もあります。

 

木を見て森を見ず状態になりがち。

我々は、どうしても「病気」に目がいく「医師視点」になりがちです。

そして、全人的医療についての理解も浅く、「癌患者の緩和ケア」程度に考えている方も多くいると思います。

あくまで、本質は、病ではなく、「病を持った患者視点」であることが大事です。

そのために必要な視点が「全人的アプローチ」なのです。

大事なことなので何度も言います。

「なぜ医者になったのか」を忘れてしまうと、「患者視点」で物事を考えず、

「自分」、つまり「医師視点」で考えるようになってしまいます。

その意識を常に持ちながら、日々臨床に携わることが良い臨床医として必須なのではないでしょうか。

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